大阪高等裁判所 平成2年(ラ)76号 決定 1990年4月09日
抗告人 内藤哲夫 外1名
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人らの負担とする。
理由
I 本件抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりである。
II 当裁判所の判断
当裁判所も、抗告人らの本件特別養子縁組申立は、民法817条の7に定める特別養子縁組を成立させるための要件を充足するものと認められないので、これを却下すべきものと判断する。その理由は、原審判書5枚目表11行目の「認められたとしても」を「認められたとすれば、禎子と智子の親子としての法律上の親族関係は終了することとなるにもかかわらず」と改め、同行の「智子」の次に「との間に」を、「姉妹として」の次に「の」をそれぞれ加え、12行目の「存続する」を「形成される」と、「反って」を「却って」とそれぞれ改めるほかは、原審判書の理由説示のとおりであるから、これを引用する。
抗告人らは、原審判の見解に従えば、直系尊卑属間等の親族間においては特別養子制度を利用する道が事実上閉ざされることとなり、不当である旨主張する。しかしながら、前説示のとおり、もともと特別養子制度は、民法817条の7に定める要件を充足するような恵まれない子のために、敢えて実父母との法律上の親子関係を断絶させてまで、普通養子制度のそれとは異なる特別な養親子関係を形成させ、もってその健全な育成を図ろうとするものであるところ、本件については、前認定のところからして、子である智子の健全な育成を図るうえで、母である禎子との法律上の親子関係を敢えて断絶させることにより得られるものが多いとは認めがたいところであり、また、記録によれば、父である菊地においても、前示親権者変更の調停成立後は、智子とは没交渉であって、その成育過程に何らの干渉もしていないことが認められ、将来にわたっても、智子の健全な育成を図るうえで、菊地との法律上の親子関係を敢えて断絶させることがことさら望ましいとすべき事情は認められないところであるから、上記の特別養子制度の趣旨、目的に照らせば、本件においては、抗告人らとの間に特別養子縁組を成立させることが「子(である智子)の利益のために特に必要がある」と認めることができないというほかはないのであって、もとより、本件についてこのように判断するとしても、直系尊卑属間等の親族間において特別養子制度を利用する道を事実上閉ざすことになるわけでもないから、所論は失当というべきである。
よって、原審判は相当であって本件即時抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人らに負担させることとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 後藤文彦 裁判官 古川正孝 川勝隆之)
別紙
抗告の趣旨
1 原審判を取り消し、本件を大阪家庭裁判所に差し戻すとの裁判を求める。
抗告の理由
1 本件は申立人らの実子禎子の婚外子智子を申立人らの特別養子とすることを求めるものであるが、原審判は、「仮にこれが認められたとしても、禎子と智子は姉妹として法律上の親族関係が存続することになり、反って不自然な関係となる」こと、「現実の生活交渉としても切断されるとは考えられ」ないこと、を理由に特別養子制度の目的を達せられないと断じて、これを却下した。
2 しかし、特別養子制度はもっぱら子の福祉にとりそれが必要か否かという観点から運用されるべきであり、原審判が指摘する実母との親族関係の存続及び生活交渉の連続が、将来その子の福祉にとり有害ないし好ましくない事態の発生が予想されるし、かつ、本件事情の下では要保護性の要件をみたさないからというのであればまだしも、その点についての理由付を全くすることなく「その余については判断する必要がない」とする原審判の論理は十分の説得力をもたない。そればかりか原審判の見解に従えば、直系尊卑属間や傍系尊卑属間等の親族間においては事実上、特別養子制度を利用する道をとざす結果となり、これは親族であることを特別養子縁組の障害事由としていない法の立場を不当に制限するものといわねばならない。
実際上も、我国のいわゆる「藁の上からの養子」は、親族間において問題となる事例が多く、特別養子制度が親族間において利用困難となるような運用は制度目的からみても狭きに失する。
3 原審判の認定する事情の下においては、とりわけ、実父との親子関係を法律上も切断することが子の福祉にとって不可欠であり、又、申立人らが特別養親となる実態に欠けることもないのであるから(事件本人子も申立人らを実親と信じて成長している)本件申立は認容されるべきである。